「さなぎ」の時期
虫たちは、卵からかえり幼虫になります。幼虫は、何度も何度も脱皮をくりかえし、大きくなっていきます。卵からかえったばかりの幼虫と比べると、何度も脱皮を終えた幼虫の大きさは数倍にもなり、色や模様、形まで変わっていることもありますね。
それでも、まだ「幼虫」であることにはかわりはありません。そして、とうとう最後の脱皮を終えた幼虫は、立派な成虫になるために、今度は何になるのでしたっけ?
心身ともに大きくなった子ども達は、小学校高学年の時期を経て、中学に入学していきます。体も大きくなり、親も子も、ちょっぴり大人に近づいた気分・・・を感じます。
そして1年、2年・・・もっともっと背も伸びて、男の子はほとんどすべての子が声変わりし、女の子は体つきがふっくらとして・・・ いよいよ、中学入学後、3年生を迎える頃には、子ども達はすっかり寡黙になり、あまり話さなくなっていきます。あきらかに自分の時間、自分の世界を作り、多くの子ども達は、何とか心地良いその自分の世界の中で過ごしたい!そう思うようになっていきます。急に、子どもが「見えなくなる」時期の始まりです。
小学校高学年の頃から、すでに親に反発したり、反抗したりはしていたでしょうが、少なくとも当時の彼らのネガティブな行為、反旗は目に見えるものであり、「反発しているのだぞ、もう簡単に言うことは聞いてやらないぞ」というパフォーマンスが、とってもよく見えるものでした。
ところが、中2、中3の頃から本格的になる彼らの行動は、時には親達には「理解不能」になっていきます。
確かにわが子なのに・・・いったい何を考えているのかわからない。
尋ねたところで、何も言わない。
親の言うことを聞いてはいても、ほとんど反応らしい反応がない。
返事もろくにしないので、伝わっているのかどうかもわからない・・・
さあ、『さなぎ』の時期の到来です。
さなぎになった彼らは、もう外界との接触を絶ってしまいます。
さなぎはもう食べず、じっと、ただじっと動かず、自分の居場所を守ります。
でもね、動かない彼らは、ちゃんと生きているのです。そして、さなぎの中では、確実に「立派な成虫」になるための準備をしているのですよ。
そんなさなぎを、動かないからと言って不用意にゆすったり、生きているか死んでいるかわからないからと無理に皮を破らないであげてください!
そんなことをしてしまったら、せっかく何度も何度も苦労して脱皮をくりかえしてきた幼虫の努力と時間が水の泡になってしまいます。
やっと美しい成虫になる一歩手前まで来て、尊い命を無駄にしてしまうことになってしまうのです。
もしあなたが、さなぎになった事が、どうしても許せない!どうして動かないのか?どうしてせっかく与えてやっている餌を食べないのか!腹を立てている親達だとすれば・・・それは理不尽な憤りです。
もう一度敢えて言いましょう。どんなにすばらしい環境でも、どんなに栄養満点の餌でも、幼虫の時期に、さなぎになるまでに与えてあげなければ何の意味もありません。
勉強や、成績や、テストの結果や、偏差値や、席次や・・・確かにそういう事もなおざりにして良いことではありません。しかし、一個の人間として成長していくためには、そんなことよりも、もっともっと大事なことがたくさんあるはずです。
子ども達が家庭の中で学ぶべきことはたくさんあります!とても極端な言い方をするとするならば、サボった分の勉強は、必死になれば取り返すことは可能でしょう。でもね、過ぎてしまった時間は決して取り戻せません。
小学校高学年までにしっかりと家庭教育の中で、親の背中、親の生きざまから学ぶべき道徳心、社会性、他人を優しい気持ちで見る目、家族の一員としての自分の役割、人への心配り・・・こういうことは、家庭の中で、家族からしか学べないものなのです。
好むと好まざるとにかかわらず、時期がくればさなぎになってしまいます。さなぎになって、外界からの接触を絶ってしまった子ども達に、今さら通じなくなってしまうことは少なくありません。
だからこそ、どうぞ一生懸命に脱皮を繰り返している幼虫の時期に、人としてのありかた、生き方を教えてあげてください。
そして、さなぎになった時には、理不尽に怒鳴らず、子ども達の真っ当な成長を喜んであげて、立派な蝶々として羽化する日のことを楽しみに待ってあげる「賢くて立派な親」であってください。